温泉がないのに、いい湯。一の瀬「トゴールの湯」の謎に迫る

温泉がないのに、いい湯。一の瀬「トゴールの湯」の謎に迫る

発哺、高天ヶ原、熊の湯。名湯ぞろいの志賀高原で、一の瀬エリアにだけ温泉が湧いていません。それなのに湯上がりの体はいつまでもポカポカ。その正体は、年3ヶ月しか採れない鉱石が生んだ「トゴールの湯」でした。

名湯ぞろいの志賀高原で、一の瀬にだけ温泉がない

志賀高原は温泉に恵まれた山です。発哺(ほっぽ)温泉、高天ヶ原温泉、熊の湯温泉。白根山系の火山地帯だけあって、エリア内のあちこちで湯が湧いています。山を下りれば渋温泉・湯田中温泉。こちらは全国区の知名度を持つ、歴史ある温泉街です。

ところが、志賀高原の中心地であるはずの一の瀬エリアには、温泉がありません。21軒の宿が集まる一大拠点なのに、です。

理由を伺うと、意外な事実に行き当たりました。温泉が「湧かない」のではなく、「引いていない」。一の瀬を流れる雑魚川水系には天然のイワナが生息していて、その保護のため温泉水を排水しない取り決めがあるのです。つまり一の瀬は、川と魚を守るために温泉を使わないと決めたエリアなのです。

それなのに、湯上がりはポカポカする

一の瀬の宿に泊まると、温泉がないはずなのに、風呂がいい。大浴場から上がったあと、手足の先までじんわり温まった状態が長く続きます。正直、温泉だと言われたら信じてしまうレベルです。

掲示板に書かれた「トゴールの湯」の文字。効能書きまで貼ってあります。人工温泉なのに効能書き? 初めて見る名前だったので、調べてみました。

トゴールの湯の正体は、新潟県産の鉱石だった

トゴールの湯は「トゴール鉱石」という天然鉱石を使った人工温泉です。製造元は株式会社トゴール研究所(新潟県湯沢町)。研究開始は昭和54(1979)年ですから、40年以上の実績があります。

原料のトゴール鉱石は、新潟県の栃尾又(とちおまた)温泉付近で採れる風化花崗岩。栃尾又といえば日本三大ラジウム温泉に数えられる湯治場で、その一帯の石は昔から「湯石」「薬石」と呼ばれてきたそうです。ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄といったミネラルを豊富に含み、水に溶け出しやすいのが特徴。

仕組みはシンプルで、粒状に加工した鉱石「トゴール®・ウォームタイト」に浴槽の湯を通し、ミネラルを溶かし込んでいく方式です。入浴剤のように湯に何かを混ぜるというより、湯が石の間を通って「温泉化」していくイメージ。だから見た目は無色透明、においもありません。

採掘できるのは年3ヶ月だけ

採掘地は積雪14メートルに達する新潟の山中。1年の半分は雪で入れません。おまけにイヌワシの生息地のため、繁殖・営巣期を避けた年およそ3ヶ月しか掘れないのだとか。

イワナのために温泉を引かない一の瀬の湯船に、イヌワシに配慮しながら掘った鉱石が沈んでいる。偶然でしょうが、できすぎた組み合わせです。

効能は国のお墨付き。「人工だから」と侮れない

人工温泉と聞くと格下に見られがちですが、トゴール・ウォームタイトは厚生労働省承認の医薬部外品です。認められている効能は、神経痛・リウマチ・腰痛・肩こり・打ち身・疲労回復・冷え症・しもやけ・あせも・荒れ性・痔。腰痛や膝痛を対象にした臨床試験でも良好な結果が学会報告されています。

実用面のメリットもあります。無色透明・無臭なので、硫黄泉が苦手な人や肌の弱い人、子ども連れでも入りやすい。あのポカポカの持続は、ミネラルによる温浴効果と血行促進によるものだそうで、体感には裏付けがあったわけです。

一の瀬の宿は、風呂へのこだわりで選べる

取材してわかったのは、一の瀬の宿がそれぞれ別の方法でお客様の疲れを癒す「いい風呂」を作っていることです。

宿お風呂特徴
志賀一井ホテルトゴールの湯大浴場24時間・チェックアウト後も入浴可
ホテルむつみトゴールの湯24時間入浴可・サウナ併設
ホテル山楽トロン温泉(人工温泉)ジャグジー付きの大浴場
ホテル一乃瀬準天然光明石(こうみょうせき)温泉石風呂・ひのき風呂・うたせ湯の3種
ホテルジャパン志賀天然水風呂一の瀬水源の天然水を加温

トゴール、トロン、光明石は、いずれも日本の人工温泉を代表する鉱石。3系統が徒歩圏内に揃っているエリアは全国でも珍しく、一の瀬はちょっとした「人工温泉の見本市」です。連泊で入り比べる楽しみ方もできますし、どうしても源泉に浸かりたい日は、発哺温泉や熊の湯まで足を延ばせば済む立地でもあります。

温泉を引かない想いと素敵な時間。

一の瀬に温泉がないのは、川と魚を守るための選択でした。その代わりに宿々が導入したのが、雪山で年3ヶ月だけ採れる鉱石の湯。「温泉なし」の裏側には、この土地なりの筋の通った事情と工夫がありました。

一の瀬の水にまつわる話は、特集「水と共に生きる高原リゾート、一の瀬ってどんなところ?」でも紹介しています。次の滞在では、脱衣所の掲示板をちょっと気にしてみてください。


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